■はじめに

近年、日本において、マインドフルネスが各種メディアで頻繁に取り上げられるようになりました。1979年、アメリカ・マサチューセッツ大学でマインドフルネスストレス低減法が開発されて以来、科学的研究が積み上げられ、ストレス低減やメンタル不調の回復、集中力や共感力の向上、対人関係の改善など、マインドフルネスには様々な効果があると言われるようになりました。今や、医療分野にとどまらず、ビジネス、教育、司法などの領域でも注目されています。

マインドフルネスは、2500年前に始まった仏教の修行法を起源とするものです。それが現代において、宗教性を排除されて科学的なアプローチの対象になり、心のトレーニング法として熱い視線を受けるようになったことについては、賛否両論があるでしょう。しかしながら、昨今のマインドフルネス・ムーブメントのおかげで、一般に敷居が高いと感じられる「瞑想」に、かつてないほど近づきやすい状況が生まれたことは、大変喜ばしいことだと思っています。人類の叡智が、わかりやすい形で、現代風の装いで、まさに手の届くところにあるのですから。

その一方で、マインドフルネスが、一過性のブームで終わりすぐに忘れ去られてしまうのではないかという懸念もあります。せっかく火のついた、このともしびが消えないようにするためには、マインドフルネスを単なるハウツーとして広めるのではなく、豊かで幸福な生き方を真摯に探求する方々にも十分応えられるだけの、奥行きをもった実践哲学として整える必要があると考えます。大田健次郎氏が開発した日本発のマインドフルネス心理療法「自己洞察瞑想療法(マインドフルネスSIMT)」は、そうした要求に応えうる骨太のプログラムであると言えます。自己洞察瞑想療法は、脳神経生理学などの科学的知見を参照しながら、禅仏教と西田幾多郎の哲学をベースにして作られました。それはうつや不安障害等のメンタルヘルス不調の改善に役立つだけでなく、自己を深く洞察し、人生の願いに気づき、より自由に、より幸福に生きていくための支えを提供するものでもあります。

Mindful Ways Japan は、容易に先を見通すことのできないこの時代において、悩みや苦しみの只中にある方の支えとなり、マインドフルネスならびに自己洞察瞑想療法を本当に必要としている方々に届けられるよう、活動してまいります。


Mindful Ways Japan 堀井 一弘 笹倉 未帆


■マインドフルネスとは

マインドフルネス(Mindfulness)とは、「今ここ」に意識を向けてありのままに受け容れることであり、そのような心の持ち方のトレーニング法です。マインドフルネスは、仏教の修行法に起源を持っており、修行者が悟りに至るための実践法「八正道」のひとつである「正念」の訳語です。アメリカでは、1980年代からマインドフルネスの技法を取り入れた心理療法が多数発展し、実績と研究が積み上げられていきました。その後、心理療法の枠を越えて、ビジネスや教育やライフスタイルなど様々な領域で注目されるようになりました。その流れを背景に、近年、日本でもマインドフルネスが紹介されるようになっています。 

■自己洞察瞑想療法について

自己洞察瞑想療法(Self Insight Meditation Therapy: SIMT)は、特定非営利活動法人マインドフルネス総合研究所の大田健次郎氏が、坐禅により自らのうつ病を克服した経験をもとに開発したマインドフルネス心理療法で、頭文字をとってマインドフルネスSIMTとも呼んでいます。大田氏は1993年に、坐禅の実践を心の病の予防・改善に応用した支援活動を開始しました。グループ実習や個人面接を重ねる中で心理療法として文書化を行い、2004年にはセラピスト育成講座を開講しました。自己洞察瞑想療法は20年以上に及ぶ臨床経験と支援実績に支えられており、セラピストの育成も10年以上に渡って続けられています。

昨今のマインドフルネス・ムーブメントはアメリカのマインドフルネス心理療法から始まった潮流ですが、自己洞察瞑想療法はその流れとは別に、禅仏教、西田幾多郎の哲学、脳神経生理学などの成果を織り込んで、日本で独自に開発された心理療法です。主にうつ・不安障害等の心の病を改善するために、クライエントが意志的自己を活性化し行動変容を起こせるようになることをセラピーの目標としています。